価格:198,000円(税込)
江戸後期に広がりを見せた浮世絵は、江戸庶民文化の香りを伝えるために、絵画を通して大きな役割を果たしました。
中でも表舞台では目立たなかったと考えられる 「春画」 は、男女の営みを、包み隠すことなく、自由で開放的にイキイキと創作され、見事な絵画芸術を生み出していたのです。
一般の浮世絵の域を超え、唐絵や日本画などと違い、秘められた絵画の芸術性は、ゴッホやモネ、ドガらに大きな影響を及ぼし、ピカソも真似たと言われるほど、世界中の美術家を驚かせました。
北斎春画の最高傑作であり 「幻の名品」 とうたわれた浪千鳥があります。
この度、その中に収蔵する『願いがかなう』が北斎生誕250年の記念として制作されました。
今では、再現するのが至難の業といわれる当時の浮世絵の春画ですが、それぞれの持てる最高の技で完全復刻された証に、彫り師、刷り師、着彩絵師3名の落款と限定番号が入った保証書が添付され、また作品本紙の右下隅にも、三名の落款と通し番号が入って、謹製に手彩色木版画として制作したことを保証しています。
当時の姿をそのまま、現代によみがえらせたことは大変貴重であり、木版画としての美術的価値も兼ね、今後、あらたに制作することは、極めて困難で、将来にわたり、その希少性はさらに増すものと考えられます。
制作について
江戸時代の浮世絵木版の制作方法をもとに、当時と同じ素材と材料をそろえ、当時の技法を継承する名人の超絶技巧により『願いがかなう』を仕上げました。
【匠の道具】 砥石ノミ、小刃類、ブラシ・刷毛、バレンなどの道具類
●材料
作品の本紙は、人間国宝・9代目岩野市兵衛が漉いた、楮(こうぞ)100%の越前生漉奉書和紙を使用。版木は天然目の山桜柾目(まさめ)を使用。
●彫り
絵師の構図を入念に確認し、版下を書き上げ版木に貼り込み、小刀と細ノミで、主線となる極細な線と形を彫ります。浮世絵の命のひとつである輪郭線を摺る主版では、髪の毛の一本一本にまで墨線が彫られ、校合摺りを行い、続いて色版彫りを行います。
摺り師は、色彩を摺り入れる箇所を確認し、彫られた版木に着彩した上に、本紙をのせ、各色ごとにバレンで摺りを行います。
着物や帯紐などは、艶やかな色彩が刷られていきます。地肌の丸みをだすため、今ではみられない細部にいたるハッカケ版でボカジ摺りが加えられています。
人物などの型紙を作り、摺られた人物の輪郭に型紙をあてがい、刷毛に白雲母をつけ、内から外へと何度もなぞるようにして塗っていきます。
最後に、全体のバランスをみながら、要所要所入念に着彩をして仕上げます。
フランスでは、 「世界でもっとも有名な絵は」 と聞かれるとたいていの人は、モナリザと並んで、北斎の 「神奈川沖浪裏」 (かながわおきなみうら/ 冨獄三十六景の一作)を挙げるそうです。
『浪千鳥』の原本である北斎の錦絵集 「富久寿楚宇(ふくじゅそう)」 は、 「浪裏」 より少し前の時期に制作されたものですが、北斎の創造の高揚(テンション)が同じほどの高さで発揮されたものといって間違いないでしょう。
愛し合う男女を描くと、非常に複雑な姿になるので、歌麿でも余白を生かす構図をとりましたが、北斎は強引な力で画面いっぱいに押し込めてしまいます。そこにたわめられた息苦しいまでのエネルギーが一気に、絵を見る人に放射されてきます。
春画はひとり淫靡なイメージをむさぼるという楽しみ方もありますが、北斎は、イザナギ、イザナミの国生み神生み(くにうみかみうみ)神話や雨之鈿女尊命(アメノウズメノミコト)の好色な踊りなどと同じ、自然の中の大地母神のパワーを、絵画を通して解き放とうとしています。そこが、この絵の芸術性を理解する重要なポイントで、冨嶽から受けたインスピレーションにも通じるものです。
「世界でもっともパワーをくれる絵は?」 と聞かれたら、私はためらいなくこの一点を挙げたいと思います。
(画像の陰部はボヤケさせていますが、お届けの作品は鮮明に摺られております)
※特に、頭部の一本一本の毛髪より、下部ヘアーの縮れの彫り・摺りは、大変困難を極め、春画表現の最大のクライマックスでもあります。
彫りだけでも2週間以上、また摺りも墨の量を板木にのせ、摺る力の入れようも最も神経を使う場面です。摺りあがった完成品を手に取って頂ければ、ひときわその技に感動いただけると思います。
若い年上の女と、若衆(わかしゅう)です。若衆とは元服前(16歳前)の男子です。
遊女は売れっ子でなかなか彼に逢うことができません。ようやく都合をつけて逢えて、二人は馴れ初めたばかりで、気持ちを通い合わせての交わりでした。
若衆は若さにあふれ何度も最高に達します。遊女は若い恋人を熱愛し、相手が心離れしないように懇願しながら、恍惚の境地にひたっています。
男は女の胸に顔をうずめ、女は男の背中に腕を回して力をこめて締め付けています。男の手は女の肩のあたりを握り締めています。
愛し合う両人が最高潮を迎えた場面を描いたものということができるでしょう。
下半身だけ着物がはだけているのも、お互いを求める待ちきれない心の高ぶりが如実に表されているようです。
喜多川歌麿は、情緒を醸し出すために余白を多くとり、北斎は内面のダイナミズムやパワーを表現するために画面を突き破るがごとくに隅々まで描き尽くし、自由に奔放が発揮されています。
洒落っ気にそっとお飾りできるモダンな額装は、本紙が簡単に取り外しできるよう工夫しております。また、付属の木製スタンドを使えばお好みの場所で自由にご利用いただけます。
ご自身のプライベートな時間にお楽しみいただくも良し、仲間と一緒にご鑑賞いただくのも良しといった隠れた名品です。