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美術品まめ知識

リトグラフとは

リトグラフは石版画(せきはんが)とも呼ばれ、油と水が混ざらない性質を利用して刷られる版画です。

このページでは、その仕組みや特徴、限定数、EA版の意味などを分かりやすくご紹介します。

テオ・トビアスの直筆サイン入りリトグラフ作品(額装前のシート状態)
テオ・トビアスの直筆サイン入りリトグラフ(額装前のシート状態)。多色刷りによる鮮やかな色彩。まるで直接描かれているかのような作品です。(Photo by nihonbookart-mayumi)

リトグラフとは

リトグラフは版画技法のひとつです。版画といえば浮世絵でおなじみの木版画を思い浮かべる方も多いかもしれません。木版画は、木の板を彫刻刀で彫りますね。彫ったところは凹となりインクが付かないので、刷ると白い部分になります。逆に、彫らずに残したところは凸となりインクが付きますので、刷ると紙にその部分のインクが移ります。

一方、リトグラフは原版を彫りません。平らな版に化学処理をすることで、インクが付く部分と付かない部分を作ります。

仕組みと作り方

リトグラフは、油と水が混ざらない性質と化学反応を利用して刷られます。油性のリトクレヨンや絵具で原版に直接絵を描き、その後、薬品を用いて絵の部分が版に定着するよう処理をします。こうして、インクが付く部分と付かない部分が生まれます。制作には高い技術と多くの手間がかかります。

石版と版材について

リトグラフの「リト」はギリシャ語の lithos(石)、「グラフ」は graphia(描く、記す)に由来しています。つまり「石に描く」ということです。ただし、その石は何でもいいわけではありません。リトグラフに使われるのは石灰岩です。

石灰岩には無数の微細な孔があり、水分や油脂を受け入れやすい性質があります。また、薬品との化学反応を利用して描いた部分を定着させるのにも適しています。

伝統的なリトグラフではヨーロッパの石が使われます。代表的なのは、南ドイツ・ゾルンホーフェン産の石です。18世紀末、ドイツ人アロイス・ゼネフェルダーがこの石灰岩を用いてリトグラフの技法を発展させたことでも知られています。

現在では、石灰岩以外の版材も使われるようになりました。石は重く、高価で、研磨にも手間がかかるため、亜鉛版やアルミ版などの金属版が一般的に用いられています。

リトグラフの特徴

白黒ではない、多色刷りのリトグラフでは、色の数だけ版が必要になります。たとえば15色使う作品なら、15版を用意し、それぞれを正確に重ねながら刷っていきます。こうして生まれる画面は、明るくカラフルで、装飾性にも富んだものになります。

リトクレヨンや絵具で原版に直接絵を描き版を作るので、筆致や線のニュアンスを活かしやすいのが特徴です。

シャガールやピカソをはじめ、リトグラフに積極的に取り組んだ世界の巨匠も多いため、洋画のイメージが強いかもしれません。しかし実際には、東山魁夷や平山郁夫などの日本画家の作品もあり、表現の幅の広い技法であることがうかがえます。

東山魁夷《緑の詩》(1997年制作)の直筆サイン入りリトグラフを取り付ける日本ぶっくあーと太田唯男
日本画家・東山魁夷のリトグラフ。《緑の詩》1997年作、直筆サイン・落款入り。制作当時「世界で最も大きな版画」と称された作品です。お取り付け後に最終確認している、日本ぶっくあーと・太田唯男。(Photo by nihonbookart-mayumi)

限定数とエディション番号

リトグラフは、ひとつの作品で制作される枚数が限られています。何枚刷るかは通常作家側が決め、50部程度のものから300部前後のものまでさまざまですが、いずれも限定制作です。刷りが終了すると、原版上のデッサンは消されるのが一般的です。

完成した作品は一枚ずつ品質が確かめられ、作家が認めた作品にエディション番号が記入されます。例えば、「25/300」のように、分数で表記される場合は、分母の「300」が限定数分子の「25」が刷り番号です。

ただし、この刷り番号は必ずしも刷られた順番を示すものではありません。また、若い番号ほど刷りの質が高いというわけでもありません。

EA・AP・HCについて

リトグラフのE.A.版(作家保存版)のサイン表記
リトグラフのEA版(作家保存版)。(Photo by nihonbookart-mayumi)

作家は制作料を版元から受け取るとともに、一定数の作品を保有できます。これが作家保存版で、通常は総刷り数の約5%前後です。

この作家保存版には、限定番号の代わりに EAまたはEpreuve d' Artiste (エプルーブ・ダルティスト/フランス語)と記入され一般にEA版と呼ばれています。EAではなくAPと記入されることもあり、これは Artist's Proof(アーティスツ・プルーフ/英語)の略です。

版元で通常のエディション作品が売り切れたあと、EA版やAP版が市場に出ることもあります。ただし、EA版やAP版だからといって、品質や価値が通常の限定番号入り作品より高いわけではありません。「EA版は価値がある」として販売している業者もあると聞きますが、日本ぶっくあーとでは、直筆サイン入りリトグラフにおいてEA版と限定番号版で価格に差をつけて販売したことは一度もありません。

また、HC と記された作品もあります。これは Hors Commerce (オル・コメルス/フランス語)の略で、非売品を意味します。美術館用の見本などとして刷られるものですが、こちらも市場に出ることがあり、通常の限定作品と品質や価値に本質的な差はありません。

飾る際の注意点

リトグラフを美しい状態で長く楽しむためには、飾る環境にも気を配ると安心です。直射日光や強い光は色あせの原因になり、多湿の環境ではシミやカビが発生しやすくなります。

強い日差しが差し込む場所や湿気のこもりやすい場所を避けて飾るのがおすすめです。額装されていても、急激な温度・湿度の変化は作品に負担をかけます。エアコンの風や加湿器の蒸気が直接当たらないよう注意しましょう。

まとめ

リトグラフは、油と水が混ざらない性質と化学処理を利用して刷られる版画技法です。彫るのではなく描くように制作できるため、柔らかな線や豊かな色彩表現を活かしやすいのが大きな特徴です。

油彩画とは異なる軽やかさがあり、大型作品でも圧迫感が出にくいのも魅力です。壁面に取り入れやすく、廊下や階段など、限られた空間でもお楽しみいただけます。風景や街並みの作品を飾れば、窓がひとつ増えたような視覚的効果も感じられます。

文責

nihonbookart-mayumi

参考動画

リトグラフ制作の工程をご覧になりたい方は、こちらをご参考になさってください。↓

国立西洋美術館|リトグラフ制作工程の参考動画を見る

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