143年前に作られたエッチング版画
繊細な線描で、光と影のコントラストが巧みに表現されています。光を放つ聖母子の表情は優しく、静かで穏やかな美しさにあふれる作品です。
エッチング彫師のフェルディナンド・レーンホフは、「印象派の父」エドゥアール・マネの義弟で、『草上の昼食』で描かれている男性のモデルと言われています。
作品仕様
- 【技法】 エッチング
- 【画寸】 タテ 22.5 × ヨコ 17.5 cm
- 【額寸】 タテ 49 × ヨコ 43.5 cm
- 【発行】 フランス美術誌『ラール(L'Art)』第29号、1882年、p164
- 【画面右下】 Raphael pinx. (ラファエロ作)
- 【画面左下】 Ferdinand Leenhoff sc.(彫師: フェルディナンド・レーンホフ)
作品下部の刷り込み文字について
※[注]『ラール(L'Art)』第29号では、版画の元となった絵(原画)をラファエロ作としていましたが、現在原画を所蔵しているフォッグ美術館はアントニオ・デル・マッサーロ作であるとしています
【同エッチング版画を所蔵する主な博物館】
イギリス・大英博物館
美術誌『ラール(L'Art)』について
19世紀に発刊されていた美術誌です。美術の普及、議論の場としての重要な役割を担っていました。
記事の内容は、絵画・彫刻・建築・装飾美術などです。美術史や批評のほか、当時の現代作家の紹介、芸術運動についても取り上げられていました。
高品質な版画や挿絵をぜいたくに掲載していたことから、美術の専門家だけでなく、愛好家にとっても貴重なリソースでした。
[参照]
・フランス国立図書館
原画について
アントニオ・デル・マッサーロ『聖母子』('サンタ・キアラの聖母')
画寸:95.3 × ヨコ 72.1 cm
技法: パネルにテンペラ
制作年: 1490年頃
所蔵:ハーバード大学付属フォッグ美術館(アメリカ)
原画についてのまめ知識
16世紀(1580年)までの所蔵は、イタリア・ウルビーノのサンタ・キアラ修道院です。ウルビーノは、ルネサンス文化の中心地。ラファエロ生誕の地としても知られています。
19世紀にローマ在住のアメリカ人銀行家の手に渡りました。レーンホフ版のエッチングが制作された当時はラファエロ(1483-1520)が描いたとされていたため、版画には Raphael pinx. (ラファエロ作)と記されています。
その後、ラファエロではなくアンドレア・ディ・アロイージ(Andrea di Aloigi)作であるという説が出ました。アロイージは、ラファエロの師匠であるペルジーノの助手として記録されている画家です。
現在の所蔵元フォッグ美術館では別の画家、バチカン宮殿ボルジアの間のフレスコ画制作にもたずさわった、アントニオ・デル・マッサーロ(1450-1516 / Antonio del Massaro da Viterbo)作であるとしています。
[参照]
・ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
・イギリス王室ロイヤルコレクショントラスト
・ハーバード大学付属フォッグ美術館
[文責] mayumi_nihonbookart
フェルディナンド・レーンホフ(Ferdinand LEENHOFF) 1841 ~1914
画家・エッチング職人・版画家・彫刻家
オランダ・ザルトボメル生まれ、後にパリに移住。
姉シュザンヌは「印象派の父」エドゥアール・マネと結婚。マネ『草上の昼食』の画面左の男性はレーンホフがモデルと言われている。

